虚像を抱く男 連作第二話 気持ちが良いとか良くないとか、いや良いことには絶対に間違いないのだけれど。それでもやっぱり信じられない。自分の正気を疑ってしまう。 成歩堂は夢か幻でも見ているような気持ちで、足の間の御剣を見下ろした。 「う……みつる、ぎ」 ソファに腰掛けた恋人の足の間に体を置いて、御剣は必死に成歩堂のそれを舐めていた。赤く濡れた唇が、自分の立ち上がったそれを包み込んでいる。 正直なところ、その動きは拙いしお世辞にも上手ではない。しかし、上手ではないはずなのに、成歩堂はすぐにでも達してしまいそうになっていた。ほとんど無理矢理にされているこの行為は、始まって間もないというのに、だ。 何故御剣がいきなりこんなことをしだしたのか、見当も付かなかった。決して、嫌だということではないが、どうせ御剣がそんなことをするはずはないと思っていたので、不意打ちの奉仕に対してどうすればいいのかわからない。たとえ下手としか形容できないものとはいえ、『御剣が自分のそれを咥える』という事実を目の前にしては余裕などあるはずもなく、成歩堂はされるがまま喘ぎ声を漏らす。 そうこうしているうちに、本格的な限界が見え始めた。 「みつるぎ、もう、いいから」 息も絶え絶えに懇願すると、自分のものを咥えたままの御剣と目が合った。苦しそうな表情で自分を見上げる様子は、見たこともないくらい壮絶なものだ。もうだめだとくらくらしてきた頭で考える。 それでも、そのままだしてしまってはいけない。成歩堂は少し無理矢理に御剣の頭を引き離しす。 その瞬間、御剣のとがった歯が掠め、その痛みで射精してしまった。 慌てて成歩堂は腰を引いたが、そんな気遣いもむなしく白濁は御剣の端正な顔を汚した。 「うわ…っ、ごめん!」 淫靡な光景に成歩堂は顔を真っ赤にし、謝った。先日のすれ違いがあってから、ずっとセックスも自慰もしていなかったいせいか精液の量も多く、すさまじい眺めだ。そこらへんのアダルトビデオなんかより、自分にはこっちのほうが何倍も毒になる。 しかし当の御剣はそんな成歩堂をちらりと見やっただけだった。黙って顔にかかったものを指でぬぐう。そして表情も変えないで、その指に着いたものを舐め取った。 成歩堂は目を白黒させた。 こんなことではいつかこいつに殺されてしまう。 すっと御剣の目が細められた。 「…だから嫌なのだ」 「え?」 一瞬見えたのは泣き出しそうな表情だった。 「君のそういうところが、非常に不愉快なのだよ」 御剣の法廷でも見せないような険しい顔つきになり、成歩堂をきつく睨むと、さっさと洗面所へ向かっていった。 わけがわからない。 成歩堂はぽかんと口を開けたまま、その背中を見つめることしかできなかった。 top |