今月の限定スイーツ

「なんか偽物って感じしない?チョコレートなのか生クリームなのかはっきりしなくてさ…」

御剣が持ってくる手土産はいつだって一級のものだ。洋菓子でも和菓子も、
美味しくなかった物なんてない。甘い物好きな助手と違って特別詳しくない成歩堂でも、それがびっくりするような値段が付いていることはわかる。御剣の持ってくるお菓子はそんな非日常的な物だった。
その日、御剣が持ってきたのも、とある有名店のケーキだった。
問題は、それがオーソドックスなチョコレートケーキだったということである。成歩堂は好き嫌いは少ない方だったが、チョコレートクリームは数少ない苦手な物の一つであった。

「それは…すまなかった」
「いや、君が謝る事じゃないけどさ」
せっかく持ってきてくれたものに対してけちをつけているのだから成歩堂の方がよっぽと失礼である。しかし御剣は納得がいかないようだった。
「ホールケーキは避けなければいけないな…」
御剣が至って真剣な様子だったので、成歩堂はなんだか申し訳なくなってしまった。苦手とはいっても、食べたら発疹が出るとか、そういうことではないのだ。ただ好んで食べるわけではないというだけで。
成歩堂は六等分してあったケーキの一切れを掴んだ。鼻の先を掠めるカカオの香りが上品だ。御剣が目を丸くする前で、それにかぶりついた。咀嚼し、飲み込むと、舌の上から頭の頂点まで濃密で甘ったるい味が埋め尽くした。
「……やっぱり好きじゃないなぁ」
唇についたクリームを舐め取り、御剣に笑いかける。
「こんなのなくても、うちには好きなときに来ても良いんだよ?」
僕、少なくともこんなお菓子なんかよりはお前の方が好きだから。

御剣の顔が真っ赤に染まるのはその2秒後。

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