宵は訪れず、夜は明けない 連作第一話 そりゃあ確かに、男同士のセックスで女役をやるほうの負担というのは大きいものだろうけど、それにしたってちょっと淡泊すぎるよ。じゃぁ恥ずかしがってるのかっていったら、別にそうでもないみたいだし。うわ、なんだよその目。言っとくけど、僕はあくまで平均的だと思うよ。っていうかさ、人間なら、男なら、好きな人とはどきどきすることをしたいって、当然じゃないのか? 成歩堂は一気にそこまでまくし立てると、目を白黒させている御剣を見据えて、返答を待った。 ふたりとも下着一枚でベッドの上に正座しているので、相当シュールな光景なのだが、ここにはそれを突っ込みをいれてくれる人物は誰一人いない。いたとしても、黙って部屋を出て行かれるか、卒倒してしまうかのどちらかだろう。それくらい、この部屋は妙な空気で張り詰めていた。 御剣はしばらく呆けたように成歩堂の顔を見つめていたが、しばらくして軽く瞬きをすると、首をかしげた。 「つまり君は…そのようなアレをしたいのか?」 「…そんな身も蓋もない言い方するなよ」 しかしそういうことなのだろう、と眉を寄せて反論され、成歩堂はがっくりと肩を落とした。勝手にため息が口から漏れる。 まったく可愛くないやつだ。これじゃぁ僕がやりたい盛りの男子高校生みたいみたいじゃないか。いや、やりたいには違いないんだけどそういうことじゃなくて、もっと恋人らしい意味でだ。誰にも知られないようにしないといけないとはいえ、僕らは好き合って、こういう関係をもったわけであって…。 成歩堂はそこまで考えて、熱くなりかけた目頭を指で押さえた。 (…御剣はそんなに僕のこと好きでもなかったのかもしれない。) 突然、目の前が真っ暗になって視界がぐらりと揺れた気がした。 無性に切なくなって、成歩堂は正座を崩した。じんじん脚が痺れているのが辛いが、それ以上に、自分が御剣に入れ込んでいたことに気がついてしまって、それがショックでならなかった。 成歩堂は、御剣がなにか言いたそうに自分のことを見ているのに気がつかないまま、ごそっとベッドに潜り込んだ。寝返りを打って御剣に背を向ける。 悔しいのか悲しいのか、自分でも訳のわからない感情が渦巻いて、とにかく今は淡泊な恋人を目の前にしていられなかった。 「寝るよ」 「しなくていいのか?」 そっと後ろからのぞき込まれるような気配がする。成歩堂はきつく目を瞑った。 「無理に付き合わせたいわけじゃないよ」 「…そうか」 小さな返事のあと、パジャマを着た御剣が入ってくるのがわかったが、成歩堂は何も言わずに寝たふりをした。御剣も何も言わなかった。 (やっぱり僕らが付き合って上手くいくわけがなかったんだ。) 夜は二人を残して更けていく。 top |